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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)17号 決定 1968年3月06日

申立人 鈴木福松

右代理人弁護士 桑江常善

相手方 池田松夫

主文

別紙(二)記載の賃貸借契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更し、その存続期間を昭和七五年一〇月末日までに延長する。

右賃貸借の賃料をこの裁判確定の月の翌月から一ヶ月金二、四〇〇円に変更する。

申立人は相手方に対し金一三五万円の支払をせよ。

理由

(一)  本件申立の趣旨及び理由の要旨は、

「申立人は、昭和七年四月頃別紙(一)記載の土地及びこれに隣接する若干の土地を当時の所有者池田門兵衛から期間を定めず普通建物所有の目的で賃借した。その後右賃貸借は借地法の規定による期間の満了に伴い更新されて現在に至っているが、その間昭和三六年九月中一部を返地して借地の範囲は別紙(一)のとおりとなり、なお、相手方は昭和四一年八月二〇日池田門兵衛の死亡に伴い相続により右土地の所有権を取得し賃貸人の地位を承継した。

ところで、本件借地は小田急電鉄千歳船橋駅に極く近い場所にあり、契約当時のその付近の状況は、裏通りは住宅街、表通りには若干の店舗があったが、いずれも木造建物ばかりであった。ところが戦後次第に付近の土地は商店街として発展し、本件土地は準防火地域、商業地域かつ小売店舗地区に指定されるに至り、現在においては付近の土地は商店街として益々発展を遂げ、堅固な建物が立ち並ぶようになった。

右の事実によれば本件借地については、堅固建物所有を目的とするものに借地条件を変更すべき事情の変更があったというべきであるから、右変更の裁判を求めるため本申立に及んだ。」というのである。

(二)  本件で調べた資料によると、次の各事実が認められる。

(1)  申立人は昭和五年一一月頃本件借地を含むその主張の土地を相手方の先代池田門兵衛から普通建物所有の目的で賃借し、その後申立人主張の経過で、借地の範囲は別紙(一)のとおりとなり、相手方が賃貸人の地位を承継して現在に至っている。なお、右賃貸借につき期間の定めのあったことは認められず、また現在の賃料は一ヶ月一五六〇円(三・三平方米当り約四〇円)である。

(2)  本件土地は小田急電鉄千歳船橋駅から線路に沿い西方約一〇〇米あまりの場所(線路の北側)にあり、契約当時、付近は市街地としていまだ発展していなかったが、戦後商店街として発展するようになり、現在では堅固建物も次第に立ち並び繁華街を形成するに至り、また本件土地は準防火地域、商業地域かつ小売店舗地区に指定されるに至った。

右事実によると、本件借地の付近の土地は契約後近傍の人口の増加に伴い商業地域として著しい発展を示し、繁華街を形成するようになったものと認められる。

もっとも、前記各資料に鑑定委員会の意見を合わせて考えると、右千歳船橋駅付近の土地のうちでは、線路の南側が本件借地の属する北側に比し商店街としてより発展を遂げ、既に堅固な建物が多く立ち並んでいるが、線路北側は商業地としてやや劣り、堅固建物はいまだそれ程多くないと認められる。しかし、一方右資料によると、本件土地付近の小田急線沿線地域は北側、南側を問わず発展の傾向にあり、駅付近の顧客人口はなお増加の傾向を示していると認められるのである。かように本件土地がさらに商店街として発展すべきものと考えられることに加え前記の駅から極めて近いことを考えると、借地条件変更の当否を判断するにあたり線路南側の商業地との現状の相違を重視することは必ずしも妥当でなく、本件土地は上来判示の契約後の事情の変更により、現に借地権を設定するにおいては堅固な建物の所有を目的とするのが相当となるに至っていると認められ、他に格別の事情の認められない本件において、借地条件変更の申立はこれを認容すべきものと考えられる。

(三)  そこで、次に付随裁判について検討する。

(1)  本件借地契約は、既述のように昭和五年一一月頃に成立し、期間の定めはなかったものであるが、当時本件土地に借地法は施行されていなかったから、同法附則第一七条により期間は昭和二五年一一月までとなり、格別の事情の認められない本件において、その頃更新され、残存期間は昭和四五年一一月頃までとなったと認められる。しかして堅固建物所有を目的とする借地権については、その期間は少なくとも三〇年とされているのであるから、本件において借地条件を変更するに当っては、右の趣旨を汲んで期間の延長をすることとし、約三〇年延長して昭和七五年一〇月末日までとする。

(2)  次に財産上の給付について検討する。

本件資料によれば、従前の賃料は比較的安く昭和三九年三月当時一ヶ月三・三平方米当り二〇円、その後三回にわたり増額され、昭和四二年四月から一ヶ月三・三平方米当り四〇円となっていること、また権利金あるいは更新料等の授受もないことが認められ、また残存期間は前述のようにあと二年余り(特段の事情の認められない本件においては更新されるであろうが)で、地上建物は現在朽廃の徴候は見られないが、かなり古くなっており、本件の借地条件変更により申立人はやがて来るべき現存建物の朽廃による借地権の消滅を免れ得ることになる上、その借地につきより高度の利用が可能となる訳である。本件においては、かような事情をも酌んで当事者間の利害の調整のため、申立人に相当の金銭の支払を命ずるのが相当であると考えられる。

そこで、本件借地の更地価格及び借地権価格については、鑑定委員会の意見を採って前者につき三・三平方米当り二九万円(奥行の長い土地で表側の部分と裏側とではかなりの差があるが、平均して右のようになる)合計一一四〇万円余、後者につき三・三平方米当り二一万円(建付地価格二八万円の七五%)と評価し、これを基礎として上記の諸事情を酌み、本件においては更地価格の約一割二分にあたる一三五万円をもって申立人の給付すべき金額とする(なお鑑定委員会の意見も算出の根拠は別として結論において同様である)。

(3)  次に賃料についても、本件借地条件の変更に伴い相当の増額をすべきものと考えられるが、その額については鑑定委員会の意見を採って、一ヶ月二四〇〇円(三・三平方米当り約六〇円)に増額することとする。

(四)  以上のとおり本件申立を認容し、これに付随して、残存期間を延長するとともに申立人に金銭の支払を命じ、賃料を増額することとし、なお賃料増額の時期は計算上の便宜のためこの裁判確定の日の属する月の翌月からとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦)

<以下省略>

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